いつも100円で売られている品物が、来年は98円、再来年は96円。こんなふうに、いろいろな物やサービスの値段が全体として下がり続ける状態がデフレです。ただし、値段の上がり方が鈍くなっただけの状態や、一つの商品が安くなっただけの状態は、デフレとは呼びません。まず3つの違いを並べます。そのうえで、デフレがなぜ起き、暮らしや会社にどう響くのか、日本の経験とあわせて内閣府などの資料でたどります。
| 状態 | 100円の品物の値段(仮の例) |
|---|---|
| インフレ | 100円 → 105円 → 110円と上がる |
| 上がり方が鈍る | 100円 → 105円 → 107円。上がってはいるが、上がる幅が小さくなる |
| デフレ | 100円 → 98円 → 96円と下がる |
- デフレは、物価全体が下がり続ける状態。一つの商品の値下げや、物価の上がり方が鈍くなること(ディスインフレ)とは違う
- 原因は一つではない。安い輸入品や技術革新のような供給側の要因もあれば、景気が弱く需要が足りないことによる場合もある
- 日本では2001年3月に政府が「緩やかなデフレ」と認めた。今は物価が上がっているが、2026年7月の経済財政白書の時点で、政府はデフレ脱却の判断をしていない
01 デフレとは?
金融経済教育推進機構(J-FLEC)の説明では、デフレは、インフレとは逆に、物の値段が下がり続ける状態です。正式にはデフレーションといいます。
日本政府がこの意味をはっきり打ち出したのは、2001年3月16日の月例経済報告です。「持続的な物価下落」をデフレと定義すると、日本経済は緩やかなデフレにある、と書いています。それまでは、論じる人によって定義がまちまちだったという断り書きつきでした。
この定義で大事なのは「持続的」という言葉です。ある月だけ値段が下がった、という話ではありません。下がる状態が続いていることを指しています。
02 値下げとデフレは同じ?
同じではありません。2001年度の経済財政白書は、2つを分けて考えるよう求めています。一部の商品が安くなる相対価格の変化と、物価全体の水準が下がることです。白書の例では、普段着の衣料品や携帯電話の料金がこれに当たります。
なぜ分けるのか。ある品物が安くなって、浮いたお金がほかの買い物に回るとします。そちらの値段が上がれば、物価全体は下落するとは限らない、というのが白書の説明です。スーパーの特売が目立つという実感だけでは、デフレかどうかは決まりません。
03 インフレ率が下がるとデフレ?
冒頭の表の真ん中の行を見てください。100円の品物が105円、107円と上がっていく場合、1年ごとの上がり幅は5円から2円に縮んでいます。それでも、値段そのものは上がり続けています。
内閣府のサイトで公開されている世界経済白書は、2つの言葉を呼び分けています。物価の上がる割合が小さくなっていくのがディスインフレ、物価そのものが下がっているのがデフレです。ニュースで「物価の伸びが鈍った」と聞いても、それだけではデフレではない、ということです。
04 デフレはなぜ起こる?
原因は一つではありません。2001年度の経済財政白書は、当時の日本のデフレの要因として3つを挙げています。
- 供給の面:中国などから安い品物が多く入ってきたこと、ITなどの技術の進歩、物を届ける仕組みの効率化
- 需要の面:景気が弱く、物を買う力が足りない
- 金融の面:銀行がお金を貸し出す働きが弱まっている
白書の具体例は、テレビやビデオデッキ(VTR)、繊維製品です。1999年以降、これらの輸入品が大きく増え、中でも中国からの輸入の割合が高まっていました。
供給側の要因で物が安くなること自体は、悪いことばかりではありません。白書も、一部の物が安くなる変化そのものには、日本にとって歓迎できる面があるかもしれない、という書き方をしています。問題が大きくなるのは、需要の弱さと重なって、物価全体が下がり続けるときです。
05 物価が下がるのはよいことでは?
買う側だけを見れば、うれしい面があります。J-FLEC の例はこうです。100円のお菓子が50円になれば、1,000円で買える数は10個から20個に増えます。
けれども、同じお金を受け取る側から見ると、話が変わります。同じ数の商品を売るなら、値段が下がった分だけ売上高は減ります。2001年度の白書も、この点を指摘しています。売上が減って会社の収益が悪くなれば、働く人の給料にも響くことがあります。J-FLEC も、値段が下がると売上が減り、給料が上がらなくなる流れを示しています。
会社には、すぐに減らせない費用もあります。白書の分析では、需要が減っているときに物価が下がると、会社は人件費を抑えるのが遅れます。下がり方が緩やかでも、利益に悪い影響が出るという見立てです。値段が下がる分だけ給料も下がるなら、暮らしが楽になるとは言えません。
06 デフレと景気はどうつながる?
物価の下落と景気の悪化が互いに強め合うと、悪循環になります。値段が下がる、会社の売上が減る、給料が上がらない、買うのを控える人が増える、さらに売れなくなる。この流れが進むのが、デフレスパイラルです。
ただ、デフレがいつも不景気と一緒に来るとは限りません。2001年度の白書は、19世紀後半のイギリスとアメリカの例を紹介しています。どちらも長い期間にわたって物価が下がる一方で、経済は成長していました。
- イギリス:1873年から96年の平均で、小売物価は年1.7%下がり、成長率は1.9%
- アメリカ:1864年から97年の平均で、消費者物価は年1.9%下がり、成長率は5.6%
デフレのもとでは、会社が借りたお金も重くなります。仮に1,000万円を借りている会社があるとします。物価が下がっても、返す額が900万円や800万円に減るわけではありません。ところが、商品の値段が下がって売上が減れば、同じ1,000万円を返すのは前より大変になります。2001年度の白書の言い方では、借りた額は金額のまま変わらないので、物価が下がるほど実際の重みは増していきます。負担が重くなった会社は、新しい設備にお金を使いにくくなります。
それでも白書は、当時の日本については、下がり方が小さくてもデフレの害は大きいと見ていました。会社は多くの借入れを、銀行は多額の不良債権を抱え、金利もゼロに近かったことを挙げています。同じデフレでも、そのときの経済の状態によって響き方が違うということです。
07 日本ではいつデフレだった?
数字で見ると、日本の物価が下がり続けた時期がはっきりわかります。総務省統計局の消費者物価指数(総合)の年平均の前年比は、1999年から2003年まで5年続けてマイナスでした。2009年は前の年より1.4%下がり、2010年と2011年もマイナスが続きました。
政府の判断は、次のように移ってきました。
- 2001年3月:月例経済報告が、日本経済をゆるやかなデフレと認める
- 2009年11月20日:月例経済報告が、物価の動きを全体として見ると、再び緩やかなデフレの状況だと表現
- 2013年11月22日:月例経済報告で、物価について「デフレ状況ではなくなりつつある」と表現
- 2026年7月:経済財政白書が、さまざまな物価が上がっていて、デフレの状況ではないことは明らかだと記述
令和8年度の経済財政白書によると、政府は2013年11月の表現を最後に、デフレ状態にはないという認識を続けています。
08 デフレから抜け出すには?
ここで気をつけたいのが、「デフレではない」と「デフレ脱却」の違いです。デフレ脱却の定義は、政府が2006年3月に国会へ出した内閣府の資料にあります。「物価が持続的に下落する状況を脱し、再びそうした状況に戻る見込みがないこと」です。
判断には、消費者物価やGDPデフレーター、需給ギャップ、ユニット・レーバー・コストなどを総合的に使います。ある指標が基準を満たせば脱却、という一義的な基準は示しにくい、というのが内閣府の立場です。2023年9月の内閣府特命担当大臣の会見でも、数字がプラスに転じただけでは判断しない、という説明がありました。2026年7月の白書の時点でも、脱却の判断は出ていません。4つの指標のうち、GDPギャップのプラスが続くかどうかを見極める必要がある、としています。
金融政策は、デフレの圧力を和らげる手段の一つです。日本銀行は2001年3月19日、金融市場調節の目標を日本銀行当座預金の残高に変えました。この方法を、消費者物価の前年比が安定的にゼロ%以上になるまで続けると決めています。2013年1月には、消費者物価の上昇率2%を「物価安定の目標」にしています。2024年3月には、2%の目標が続けて達成されていく見通しが立ったとして、金融政策の枠組みを見直しています。
ただ、これは日本銀行の判断です。政府のデフレ脱却の判断とは別のもので、この2つを混同しないことが大切です。金利がどう動くかは政策金利とは、日本銀行の役割は日本銀行とはで紹介しています。
09 よくある質問
インフレとは何が違う?
インフレは物価全体が上がり続ける状態で、デフレはその逆です。インフレのしくみや、日本銀行が2%を目指すわけはインフレとはにまとめています。
GDPデフレーターとは?
国内で生産された商品やサービスの物価の動きを見る指標です。金額をそのまま集計した名目GDPを、物価の変動を取り除いて計算した実質GDPで割って求めます。政府がデフレ脱却を判断するときに、消費者物価などと並べて見る指標でもあります。
- デフレは、物価全体が下がり続ける状態。一つの商品の値下げや、物価の上がり方が鈍くなるディスインフレとは区別する
- 原因には、安い輸入品や技術革新などの供給側と、景気の弱さによる需要側がある。供給側の値下がりは悪いことばかりではない
- 値段が下がっても、売上や給料まで下がれば暮らしは楽にならない。悪循環が進むとデフレスパイラルになる
- 日本は1999年から2003年に物価が5年続けて下がった。今はデフレの状況にはないが、政府は2026年7月の白書の時点でデフレ脱却の判断をしていない。日本銀行の2%目標の判断とは別のもの

