ニュースで「1ドル150円」と聞くと、何となく円が強くなったように感じるかもしれません。ところが実際は逆で、1ドルが100円から150円になれば円安です。数字が大きくなるのに円が安い、というのが、為替で迷いやすいところです。仮の例で、100ドルの買い物に要る円の額を比べてみます。
| 為替レート(仮の例) | 100ドルに要る円 | 円の状態 |
|---|---|---|
| 1ドル=100円 | 10,000円 | 比べる基準 |
| 1ドル=150円 | 15,000円 | 円安 |
| 1ドル=80円 | 8,000円 | 円高 |
同じ100ドルなのに、1ドル150円なら15,000円、80円なら8,000円要ります。ドルの値段が上がることと、円の値打ちが下がることは、同じ出来事を表と裏から見ているにすぎません。この記事では、為替レートの読み方から始めます。輸入品、海外旅行、輸出企業、物価への影響までを、日本銀行などの資料で順に見ていきます。表の100円・150円・80円は仕組みを説明するための仮の数字で、実際の相場ではありません。
- 円安は、円1単位で交換できるほかの通貨の量が少ない状態。1ドルが100円から150円になるのは円安で、ドル高と同じ出来事
- 円安になると、同じドル建ての値段でも円で払う額が増える。ただし店の値段がそのまま同じ割合で上がるとは限らない
- 円安は輸出企業に有利な面があるが、数量の伸びは近年小さく、輸入の費用も増える。円安・円高のどちらがよいかは立場によって違う
01 円安・円高とは?
まず、言葉の意味から確かめます。日本銀行の定義をかみくだくと、同じ額の円で手に入るほかの国のお金が多いのが円高、少ないのが円安です。
その「替えられる量」を決めるのが為替レートで、円とドルのように、2つのお金を取り替えるときの比率のことです。取り替えが行われる場は外国為替市場と呼ばれます。ただ、決まった建物があるわけではありません。電話やネットを通じた取引の集まりを、まとめてそう呼んでいます。
通貨を交換したい人は、身近なところにもいます。日本銀行は、海外旅行の前に円を外貨に両替する人を例に挙げています。ほかに、海外への代金の支払いに外貨を用意する輸入を行う会社や、外貨建て金融資産を売り買いする国内の投資家もいます。為替レートの動きは、こうした人たちの財布や帳簿に直接響きます。
02 なぜ150円になると円安なの?
迷ったときは、円の側から数えるとわかりやすくなります。日本銀行は、手元の1万円をドルに替える例で説明しています。1ドル=100円なら、1万円は100ドルです。1ドル=80円なら125ドルに増え、1ドル=125円なら80ドルに減ります。
同じ1万円でたくさんドルが手に入るほうが、円の値打ちが高い、つまり円高です。仮に1ドル150円なら、1万円で手に入るのは約66.7ドル。1ドル100円のときより少なく、これが円安です。
1ドルあたりの円の数字が大きくなるほど、1万円で買えるドルは減ります。だから、数字が大きくなるのに円安と呼ぶのです。ニュースで「円安ドル高」とひとまとめに言うのも、同じ出来事を円の側とドルの側から言い表しているからです。
なお、ニュースで流れる為替レートは、銀行どうしの取引(インターバンク取引)の相場です。銀行の窓口で両替したり外貨預金をしたりするときの相場は、日本銀行の言い方では「小売り段階」の値段です。ニュースの相場とは別物です。空港の両替所の数字がニュースと違うのも、この区別と関係があります。
03 円安になると輸入品はどうなる?
海外から買う品物は、外貨で値段が決まっていることが多くあります。日本銀行の解説(2020年基準)では、輸入物価指数の調査価格の契約通貨別の構成比は、円建てが26%、外貨建てが74%です。外貨建てのうち米ドル建ては、全体の69%にあたります。日本の輸入品全体の割合ではなく、指数の調査対象についての数字です。仮に、ドル建てで100ドルの品物を輸入する会社があるとします。1ドルが100円から150円になれば、同じ100ドルを払うのに要る円は、10,000円から15,000円に増えます。値段は1.5倍、差は5,000円です。
ただし、これがそのまま店の値段になるわけではありません。日本銀行の輸入物価指数は、輸入品が日本に荷降ろしされた時点の、保険料と運賃を含んだ価格を調べています。店に並ぶまでには、国内での輸送や販売の費用がかかり、会社がどれだけ値段に上乗せするかの判断も入ります。
為替がどれだけ値段に入っているかを見る手がかりもあります。輸入物価指数には2つの見方があります。円ベースの指数は、外貨建ての値段を円に直したもので、為替の動きがそのまま入ります。もう一つの契約通貨ベースは、為替の動きを取り除いた値段の動きです。
2026年8月の速報では、輸入物価指数は、契約通貨ベースで前の月より1.0%下がりました。円ベースでは3.0%下がっています。指数全体で見ると、円ベースの下落率が契約通貨ベースより2.0ポイント大きかったことになります。両者の違いには、主に為替の変動が反映されています。ただし、この差をそのまま、ある1つの為替レートの変化率と読むことはできません。なお、円ベースの前の年との比較は24.8%の上昇でした。
04 円安になると海外旅行はいくら変わる?
海外旅行は、円安・円高を実感しやすい場面の一つです。旅先で1泊100ドルのホテルに泊まるとします。1ドル100円なら10,000円、1ドル150円なら15,000円です。同じホテルの同じ部屋でも、円で払う額は5,000円違います。
両替でも同じです。さきほどの日本銀行の例では、1ドル=100円なら1万円は100ドル、1ドル=125円なら80ドルでした。同じ1万円で手にするドルが、為替レートだけで2割減ることになります。
反対に、海外から日本に来る旅行者にとっては、円安のほうが日本での買い物や宿泊が割安になります。日本銀行も、訪日客の買い物や宿泊が増えることを、円安が経済に効く道筋の一つに数えています。日本人の海外旅行には向かい風でも、旅行者を迎える日本の店やホテルには追い風になりうる、ということです。
05 円安は輸出企業に有利なの?
円安は輸出企業に有利、とよく言われます。ここでは売上と利益を分けて考えます。仮に、海外で1万ドル分の製品を売る会社があるとします。海外での販売価格が1万ドルのままなら、同じ量を売っても、円に直した売上は100万円から150万円へ増えます。ただし、実際の売上や利益は、販売価格の変更や為替予約、原材料の調達費用などにも左右されます。
ただし、利益が同じだけ増えるとは限りません。原材料や部品を海外から買っていれば、その費用も円にすると増えるからです。
日本銀行は、2022年1月の展望レポートで、円安が経済に影響する経路を5つに整理しています。
| 経路 | 中身 |
|---|---|
| 輸出の数量 | 海外での値段が下がり、輸出の数量が増える |
| 輸出の金額 | 円に直した輸出の金額が増え、国内企業の収益が増える |
| 訪日客の消費 | 訪日外国人によるインバウンド消費が増える |
| 海外からの所得 | 海外で得た所得を円に直した額が増える |
| 輸入の費用 | 輸入コストが上がり、企業の収益や消費者の買う力を押し下げる |
このうち、輸出の数量を押し上げる効果は、近年低下していると日本銀行は分析しています。日本銀行が背景に挙げるのは、2010年代の半ばまでに主な輸出企業が工場を海外へ移したことです。ドルなどで決める輸出の値段が、為替が動いても変わりにくくなりました。円安でも海外で値下げをしなければ、数量はあまり増えません。
それでも、ドル建ての値段を変えなければ、円で受け取る代金は増えます。日本銀行の見方では、数量が増えなくても、この代金の増加によって輸出額や企業の収益にはプラスになります。海外の子会社などから得る所得を通じて、円安がプラスに働く効果は、近年強まっているとも述べています。
一方、国内で売る会社にとっては、円安は輸入する材料などの費用を押し上げ、収益を減らす方向に働きます。同じ円安でも、海外に売る会社と、国内で売る会社とでは、受け止め方が違うということです。
06 円安・円高はなぜ起こる?
為替レートは、誰かが決めているわけではありません。日本銀行によると、変動相場制のもとでは、円を買いたい人と売りたい人の量のつり合いで決まります。野菜の値段が、買いたい人と売りたい人の量で動くのと同じです。
円を売ってドルを買いたい人が多ければドル高・円安に、ドルを売って円を買いたい人が多ければ円高に動きます。その売り買いには、さきほどの旅行者、輸入する会社、外貨建ての資産を売り買いする投資家など、いろいろな人の事情が混ざっています。
金利も、その事情の一つです。日本銀行のワーキングペーパーは、アメリカの金利が一時的に上がると、ドル高・円安につながることを示しています。日本銀行の公式見解ではない、研究論文です。論文の要因分解によると、2021年1月以降、2023年9月半ばまでの間に、円はドルに対して約32%安くなりました。そのうち約24%分を、アメリカの金利の影響と見積もっています。
ただし同じ論文は、時期が違えば、アメリカの金利だけでは円の動きをうまく説明できないことがある、とも述べています。金利以外の要素を理解することが大切だ、というのが論文の示唆です。「日本の金利が低いから必ず円安になる」とは言えません。日本銀行の金利の決め方は政策金利とはで紹介しています。
07 円安と物価はどうつながる?
円安は、輸入品の値段を通じて国内の物価に届きます。まず、輸入する会社が払う円の額が増え、輸入物価が上がります。それが国内の会社どうしの取引の値段に広がり、やがて店の値段、つまり消費者物価に及ぶ、という順番です。
どれくらい届くかは、時期によって違います。日本銀行の見方では、家電などで輸入品が占める割合が高まった結果、円安が店の値段に表れやすくなっています。内閣府も、2024年5月の資料で、輸入物価が円安などの要因で2024年2月に前の年と比べてプラスに転じたと指摘しました。その分が、やがて店の値段にも表れるかもしれない、という見立てでした。
物価全体が上がり続ける状態についてはインフレとは、物価が下がり続ける状態はデフレとはにまとめています。
08 円安と円高、どちらがよい?
答えは、立場によって違います。日本銀行の分析と、さきほどの両替の例から整理すると、次のようになります。
| 立場 | 円安のとき | 円高のとき |
|---|---|---|
| 海外旅行をする人 | 同じドルを手に入れるのに円が多く要る | 円が少なくて済む |
| 輸入品を買う家計 | 輸入コストが上がり、買う力が下がりやすい | 輸入コストが下がりやすい |
| 輸出する会社 | 円に直した売上が増えやすい | 円に直した売上が減りやすい |
| 国内向けに売る会社 | 輸入コストが増え、収益にマイナス | 輸入コストが下がりやすい |
| 訪日客を迎える店 | 訪日客の消費が増えやすい | 割安感が薄れやすい |
2022年1月の分析で、日本銀行は、差し引きすると円安は日本の景気を押し上げる方向に働くと見ていました。ただし、3つの留意点を挙げています。
1つめは、輸出企業を含めて大多数の企業が、為替相場の「安定」を求める傾向が強いことです。円安・円高のどちらでも、会社や家計が備えられないほど速く動けば、経済には悪い影響が出かねません。水準だけでなく、動くペースや期間も大事だということです。
2つめは、影響の向きや大きさが業種や会社の規模によって違うことです。3つめは、受け止め方がその時々で変わることです。日本銀行によると、2012年末から13年の局面では、円安は株価の上昇とともに語られる傾向がありました。景気がよくなる、というコメントの中でです。ところが2014年秋から15年の局面では、物価の上昇とともに景気の悪化を示すコメントで語られていました。同じ円安でも、何と一緒に起きるかで、暮らしの受け止め方は変わります。
09 よくある質問
ニュースの為替レートと、両替のレートはなぜ違う?
ニュースで伝えられるのは、通常、銀行どうしの取引の相場です。窓口での両替や外貨預金は、お店で言えば小売りにあたる取引で、銀行どうしの相場とは別の値段がつきます。
円安・円高は誰かが決めている?
変動相場制のもとでは、為替レートは市場の需要と供給のバランスで決まります。日本銀行の役割全体は日本銀行とはで紹介しています。
- 円安は、円1単位で交換できるほかの通貨の量が少ない状態。1ドル100円が150円になるのは円安で、ドル高と同じ出来事
- 円安で輸入品のドル建ての値段は変わらなくても、円で払う額は増える。店の値段は輸送や販売の費用、会社の値付けも入るので、同じ割合で動くとは限らない
- 円安は輸出の金額や海外からの所得を通じてプラスに働く一方、輸出数量の押し上げ効果は近年低下し、内需型産業や家計には輸入コストでマイナスに働く
- 為替レートは需給で決まり、金利の影響が大きい時期もあるが、常にではない。円安・円高のどちらがよいかは立場で違い、急な変化はどちらでも悪影響になりうる

