証券会社の口座で、ある上場会社の株を1万円分買ったとします。その1万円は、その会社に入るのでしょうか。多くの場合、答えは「いいえ」です。取引所で売り買いされているのは、もう発行された株で、お金は株を売った人に渡ります。会社にお金が入るのは、会社が新しく株を発行したときです。上場という言葉の意味から順に見ていきます。上場会社が負う情報開示の決まり、上場できる条件と続ける条件も、日本取引所グループ(JPX)と法令の資料で確かめます。
- 上場は、会社の株を証券取引所の市場で売り買いできるようにすること。株を発行することとは別
- 取引所で株を買ったお金は、株を売った人に渡る。会社にお金が入るのは、新しい株を発行したとき(公募増資など)
- 上場会社は、法律による開示(有価証券報告書など)と、取引所の規則による開示(決算短信などの適時開示)の両方を求められる
01 上場とは?
上場は、会社の株を証券取引所の市場で売り買いできるようにすることです。一般の投資家が取引する市場のほか、プロ投資家向けの市場もあります。JPXの用語集によると、もともとはオーナーなど少数の株主が持ち、株を自由に譲れない会社があります。それが上場によって多くの株主に持たれ、株式市場で自由に売買が可能となる状態になることを、株式公開(IPO)と呼びます。
東京証券取引所に上場している会社は、2026年9月30日の月末で次のとおりでした。プライム市場が1,544社、スタンダード市場が1,561社、グロース市場が595社です。ほかに、プロの投資家を主な相手にしたTOKYO PRO Marketが190社あり、合わせると3,890社です。株式会社の中で、取引所で株が売り買いされているのは、こうした一部の会社です。
02 株を買ったお金は、会社に入る?
ここは誤解されやすいところです。JPXの用語集は、株の市場を2つに分けています。
| 市場 | 何が売り買いされるか | お金の行き先 |
|---|---|---|
| 発行市場 | 会社が新しく発行する株 | 発行した会社 |
| 流通市場 | すでに発行された株 | 株を売った投資家 |
流通市場は、すでに発行された株が投資家の間で売買される場で、株の売り買いの中心は取引所取引です。ふだん証券会社の口座で上場株を買うのは、この流通市場での取引です。株を手放したい投資家から買うので、払ったお金はその投資家に渡り、会社の手元には入りません。
会社に新しいお金が入るのは、発行市場で新しく株を発行したときです。JPXは、会社が広く一般から株主を募り、時価を基準にした価格で新しい株を発行する方法を公募増資と呼んでいます。
上場のとき、つまりIPOでも、2つが混ざります。JPXによると、株式公開のときには、通常2つのことが行われます。新株を発行して資金を集める公募増資と、すでにいる株主が持ち株を売る売出しです。IPOで手に入る株でも、公募の分は会社に、売出しの分は売った株主にお金が渡ります。
03 上場していない会社は株を発行できない?
できます。株を発行することと、上場することは別の話です。会社法第199条は、株式会社が株を発行して引き受ける人を募るとき(募集株式)の決まりを定めています。上場しているかどうかに関係なく、株式会社に当てはまる決まりです。
まぎらわしいのが、会社法の「公開会社」という言葉です。会社法第2条第5号は、「その発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない株式会社」を公開会社としています。かみくだくと、発行する株の全部または一部について、譲るときに会社の承認を必要としない株式会社のことです。すべての株を自由に譲れる必要はありません。株の譲り方についての区分で、取引所に上場しているかどうかとは別の意味です。上場していなくても、この定義に当てはまれば公開会社です。
04 上場すると何が変わる?
大きな変化は、会社の外の、不特定多数の人が株主になることです。JPXは、株式公開によって資金調達の方法が広がるほか、知名度の向上や社会的な信用が増す効果があるとしています。
その代わりに、責任も増えます。大勢の投資家からお金を集める以上、業績などの会社の情報を開示する義務を負う、というのがJPXの説明です。どんな情報を、どの決まりで出すのかは、次の節で整理します。
05 上場会社はどんな情報を出す?
上場会社の情報開示は、根拠の違う2つの仕組みが並んでいます。JPXは、金融商品取引法に基づく法定開示と、取引所の規則に基づく適時開示が併存している、と説明しています。
| 種類 | 決まりのもと | 主な中身 |
|---|---|---|
| 有価証券報告書 | 金融商品取引法 第24条 | 事業年度ごとの事業と経理のくわしい報告 |
| 半期報告書 | 金融商品取引法 第24条の5 | 事業年度の前半6か月の報告 |
| 決算短信 | 取引所の規則(適時開示) | 決算の内容を早く伝える。四半期ごとのものもある |
| そのほかの適時開示 | 取引所の規則 | 業績予想の修正など、重要な会社情報 |
取引所で株が売り買いされている会社は、有価証券報告書を出す会社に入ります(第24条)。国内の会社は、事業年度が終わってから3か月以内に出すことになっています。
適時開示は、重要な会社情報を投資家に広く、タイムリーに伝えるための取引所の仕組みです。決算短信もその一つで、年1回の決算短信のほか、第2四半期(中間期)や第1・第3四半期の決算短信があります。
ここ数年で変わった点もあります。金融庁の解説によると、2024年4月1日から、金融商品取引法上の四半期報告書の制度がなくなりました。四半期ごとの開示は、取引所のルールで出す決算短信にまとめられています。金融庁はこれを「一本化」と表現しています。第2四半期については、四半期報告書の代わりに半期報告書を出す形です。たとえば3月決算の会社なら、4月から6月の第1四半期は、法律の報告書ではなく決算短信で知らせることになります。決算短信の読み方は決算の読み方で紹介しています。
06 上場するための条件は?
上場するには、取引所の審査を通る必要があります。市場ごとに条件が違うので、ここではプライム市場を例にします。新規上場の形式要件(JPXの表は2023年4月1日現在)から、主なものを挙げます。
- 株主数:上場時の見込みで800人以上
- 流通株式:流通株式数が2万単位以上、流通株式時価総額が100億円以上、流通株式比率が35%以上
- 時価総額:上場時の見込みで250億円以上
- 純資産:グループ全体(連結)で50億円以上。会社単体でもマイナスでないこと
- 利益など:最近2年間の利益の総額が25億円以上など
- 事業の継続:株式会社として3か年以上前から事業を続けていること
- 株の譲渡:株を譲るのに会社の承認が要るなどの制限がないこと(上場までに外す見込みでもよい)
最後の条件は、さきほどの「公開会社」とつながります。株の譲り方に会社の承認が要る状態のままでは、取引所で誰もが自由に売り買いすることができないからです。
07 上場を続ける条件は?
上場できる条件と、上場を続ける条件は、別々に定めがあります。JPXは、有価証券上場規程第501条で、上場している会社に基準を満たし続けることを求めています。プライム市場の上場維持基準(JPXの表は2022年4月4日現在)と、新規上場の形式要件を並べると、違いが見えてきます。
| 項目 | 新規上場(形式要件) | 上場維持基準 |
|---|---|---|
| 株主数 | 800人以上 | 800人以上 |
| 流通株式数 | 2万単位以上 | 2万単位以上 |
| 流通株式時価総額 | 100億円以上 | 100億円以上 |
| 時価総額 | 250億円以上 | なし |
| 利益 | 2年間で25億円以上など | なし |
| 売買代金 | なし | 1日平均0.2億円以上 |
| 純資産 | 連結で50億円以上(単体が負でないことも) | 正であること |
上場するときには、会社の大きさや利益の実績が問われます。一方、上場を続けるうえで求められるのは、株主が十分にいて、株が市場で実際に売り買いされていることです。1日平均の売買代金0.2億円は、2000万円にあたります。純資産も、上場時は50億円以上ですが、続ける条件は「正であること」です。上場した後は、株が市場で売り買いされ続ける状態を保てているかが重く見られている、と読み取れます。
08 よくある質問
上場会社の決算はどこで見られる?
決算短信は、取引所の適時開示の仕組みで公開されます。決算短信の数字を売上100円あたりに直した例は、100均はなぜ儲かる?やコンビニの儲けの仕組みにあります。
上場している会社は、必ず利益を出している?
上場していることだけでは、毎年利益が出ているとは言えません。プライム市場の場合、新規上場のときは利益の実績が条件の一つですが、上場維持基準の表には利益の条件が含まれていません。利益の段階の違いは5つの利益の違いにまとめています。
- 上場は、会社の株を証券取引所の市場で売り買いできるようにすること(プロ投資家向けの市場もある)。株の発行とは別で、上場していない株式会社も株を発行できる(会社法第199条)
- 取引所で株を買ったお金は、株を売った投資家に渡る。会社にお金が入るのは公募増資などで新しい株を発行したとき。IPOでは公募と売出しが混ざる
- 上場会社の開示は、法律の法定開示(有価証券報告書・半期報告書)と、取引所規則の適時開示(決算短信など)の2本立て。2024年4月から四半期報告書はなくなった
- 上場できる条件と、上場を続ける条件は別。プライムでは、時価総額250億円や利益の条件は上場時だけで、維持基準は株主数・流通株式・売買代金・純資産を見る

