財布の中の一万円札も千円札も、刷ったのは国立印刷局です。ただ、国立印刷局は硬貨は作りませんし、刷り上がったお札を世の中に送り出す「発行」もしていません。その一方で、海外旅行に持っていくパスポートや郵便切手は、国立印刷局が作っています。お札の工場として知られる組織が、何をして、何をしないのかを見ていきます。
- 本局は東京・虎ノ門、工場は全国に6つ。形のうえでは独立行政法人で、お札のほか、パスポート、切手、印紙、官報の印刷なども担う
- 硬貨は作らない(硬貨は造幣局)。お札を発行するのも国立印刷局ではなく日本銀行
- 1871年に紙幣司として生まれたころは、紙幣の発行まで担っていた。最初の近代的な紙幣は、ドイツやアメリカに作ってもらっていた
01 国立印刷局はどんな機関?
お札を作る組織の本局は、東京都港区の虎ノ門にあります。形のうえでは独立行政法人で、法律上の分類は造幣局と同じ行政執行法人です。
工場は、東京・王子・小田原・静岡・彦根・岡山の6か所で、ほかに研究所があります。働く人は職員だけで4,035人です(令和8年4月1日現在)。主な業務を所管するのは財務大臣です。ただし一部の仕事では、内閣総理大臣も主務大臣です。対象は、デジタル庁がかかわる国のデータベース(公的基礎情報データベース)の業務です。
国立印刷局の役目を決めた法律を見ると、第3条で目指すものとして挙げられているのは、通貨制度の安定です。お札を作ることと、お札を信じて使ってもらうための情報発信が、その中身です。造幣局が硬貨で受け持っている役目を、お札の側で受け持っている形です。
02 お札のほかに何を作っている?
国立印刷局が作っているのは、お札だけではありません。法律の第11条が挙げる業務と、国立印刷局が紹介している製品を、ふだんの言葉にまとめました。
| 分野 | 主なもの |
|---|---|
| お札 | 日本銀行券の製造 |
| 官報など | 官報の原稿づくりと印刷、白書などの刊行物 |
| 証券・切手 | 国債証券、印紙・証紙、郵便切手、郵便葉書 |
| 身分証 | 旅券(パスポート) |
海外旅行で使うパスポートも、お札と同じ組織で作られています。どれも、偽物が出回ると困るものばかりです。国立印刷局自身も、お札のほかに、セキュリティ性の高い製品を作っていると説明しています。外国政府などから頼まれて、その国のお札などを刷ることも、法律で認められています。
03 お札を発行するのは国立印刷局?
ここは、造幣局と同じく誤解されやすいところです。国立印刷局はお札を作りますが、発行するのは日本銀行です。造幣局の説明でも、お札は国立印刷局が作り、日本銀行が発行する、と整理されています。硬貨は作りません。硬貨を作るのは造幣局です。
お札を作る流れは、財務大臣の製造命令と、日本銀行の注文から始まります。何枚刷るかも、国立印刷局が自分で決めるのではなく、財務大臣の計画どおりに進めると法律に書かれています。できあがったお札には日本銀行が代金を払い、自分の手元に引き取ります。製造費用がいくらかかっているかはお札の製造枚数と製造費用で計算しています。
お札が発行されるのは、銀行などが日本銀行に預けている当座預金を引き出し、お札を受け取った時点です。つまり、刷り上がったばかりの一万円札も、日本銀行にある間は、まだ発行されていません。
04 お札づくりにはどんな制限がある?
印刷の技術があれば作れそうに思えますが、お札づくりには、法律と技術の両方から制限がかかっています。
法律の面では、まず、お札を作ることが国立印刷局の業務として定められています。紙にも制限があります。すき入紙製造取締法により、黒いすき入れをした紙や、日本銀行券などのすき入れと同じか似た文字や模様を白くすき入れた紙は、政府、国立印刷局、政府の許可を受けた者以外は製造できません。偽造を防ぐ技術を外にもらさないよう管理することも、国立印刷局に課された義務です。
技術の面では、お札の肖像などに使われている凹版印刷があります。お札の肖像のあたりを指でなでてみると、少しざらつきます。インキが盛り上がるほど厚く刷られているためで、国立印刷局は、これはプリンタやコピー機ではまねできないとしています。偽造防止のしくみは偽造防止技術の記事で紹介しています。
05 国立印刷局はいつからある?
今はお札の発行をしない国立印刷局ですが、始まりは発行も担う役所でした。最初の名前は、大蔵省の紙幣司です。生まれたのは1871年、明治4年の7月27日でした。その年の8月には、早くも紙幣寮へと名前が変わっています。創設したころの仕事は、紙幣の発行や交換、国立銀行の認可・育成など、紙幣の政策全般でした。
ところが、当時は国内の印刷技術がまだ育っていなかったため、明治政府は近代的な紙幣をドイツやアメリカに作ってもらっていました。日本のお札を外国で刷っていたことになります。やがて、紙幣は国内で作るべきだという声が強まり、国産化に取り組みます。1877年(明治10年)、国産第1号の紙幣として国立銀行紙幣の1円の製造が始まりました。創設から6年後のことです。
郵便切手も、1872年から作っています。官報を扱い始めたのは1898年で、それまで官報を出していた内閣官報局と一緒になったときからです。関東大震災で本局と工場がこわれた時期もあり、独立行政法人になったのは2003年(平成15年)の4月です。今年で、創設から155年になります。
06 よくある質問
造幣局とどう違う?
作るものが違います。お札は国立印刷局、硬貨は造幣局です。どちらも発行はしていない点は共通で、お札は日本銀行、硬貨は政府が発行します。くわしくは造幣局とはにまとめています。
お札はどう作られている?
紙づくりから印刷、検査までの流れはお札の作り方で紹介しています。
- 本局は東京・虎ノ門、工場は全国に6つある独立行政法人。お札のほか、パスポート、切手、印紙、官報の印刷なども担う
- 硬貨は作らず、お札の発行もしない。お札は財務大臣の製造命令と日本銀行の注文で作り、日本銀行が引き取って発行する
- 1871年に紙幣司として生まれたころは、紙幣の発行まで担っていた。最初の近代的な紙幣はドイツやアメリカで作られ、国産第1号は1877年


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