ニュースや解説では、米ドルが「基軸通貨」と呼ばれることがあります。では、何をもって基軸通貨と呼ぶのでしょうか。この記事では、米ドルが国をまたぐお金のやり取りのどこで、どのくらい使われているかを、3つの統計で確かめます。あわせて、この言葉がどんな意味で使われてきたかを整理します。
- 基軸通貨は、国際的に使われる通貨のうち、特に中心的な役割を担う通貨を指す言葉。日本銀行・財務省・内閣府の資料を調べた範囲では、統一の定義は見当たらなかった
- 米ドルの割合は、日本の輸出の51.1%、世界の外貨準備の56.70%、世界の為替取引の89%。数えているものが違うので、3つの数字は比べられない
- 金とドルの交換は1971年8月に止まった。それでも米ドルは、外貨準備でも為替取引でも、いちばん大きな割合を占めている
01 基軸通貨とは?
国をまたぐ貿易や金融取引で広く使われ、各国の中央銀行なども持っている通貨があります。こうした国際的な通貨の中でも、特に中心的な役割を担う通貨を「基軸通貨」と呼びます。
これは、この記事としての大まかな説明です。日本銀行・財務省・内閣府の資料を調べた範囲では、この言葉の統一の定義は見当たりませんでした。
言葉の意味は、資料や時代によっても違います。経済企画庁の昭和46年 年次世界経済報告(1971年12月)は、基軸通貨を「金との交換性を有している通貨の意味に限定すると」と断っています。そのうえで、括弧の中に「国際取引通貨,準備資産としての通貨,介入通貨などの諸機能をさす場合もある」と書き添えました。同じ報告の中で、金と交換できる通貨という意味と、取引や準備に使う通貨という意味の2つを使い分けていたことになります。前者の意味では「これまで米ドルが事実上,唯一の基軸通貨であった」としています。
研究者の説明も見ておきます。財務総合政策研究所の「フィナンシャル・レビュー」(2023年6月)に、河合正弘氏の論文が載っています。その注では、「主要な国際通貨のうち,他の諸国によって為替レート安定化や公的準備資産保有の対象になるものは基軸通貨と呼ばれる」と説明されています。
河合氏の説明では、まず国際通貨という広いくくりがあり、その中でほかの国が為替レートの安定や外貨準備の対象にする通貨を、基軸通貨と呼んでいます。国際通貨と基軸通貨は、同じ意味の言葉ではありません。
02 国の外で、通貨はどんな役割を果たしている?
基軸通貨かどうかを考える前に、通貨が国の外で何に使われているかを分けておくと、統計がぐっと読みやすくなります。
同じ号に載った中曽宏氏・橋本政彦氏の論文によると、国際通貨の機能は、計算単位・支払手段・価値保蔵手段の3つの働きで考えます。それぞれを民間と公的の2つに分け、6つに分けるのが一般的だとしています。両氏は、為替取引高を民間の支払手段、外貨準備を公的な価値保蔵手段、貿易決済通貨を民間の計算単位として見ています。
この記事でも、この3つの場面を統計で確かめます。
| 場面 | 統計 | 数えているもの | 時点 |
|---|---|---|---|
| 日本の貿易 | 財務省「貿易取引通貨別比率」 | 日本の輸出入のうち、取引の通貨が分かる分の金額 | 2026年1〜6月 |
| 外貨準備 | IMF「公的外貨準備の通貨別構成(COFER)」 | 世界の外貨準備の通貨別の内訳 | 2026年4〜6月期 |
| 為替取引 | 日本銀行・BIS「外為・デリバティブ・サーベイ」 | 1日平均の為替取引高の通貨別の内訳 | 2025年4月 |
3つの統計は、数えている相手も分母も違います。米ドルの割合も、統計ごとに別の数字になります。
03 日本の貿易では、どの通貨が使われている?
日本の会社が海外とモノを売り買いするとき、値段を円で決めるとは限りません。
財務省が2026年7月30日に発表した貿易取引通貨別比率によると、2026年1〜6月の日本の輸出入は、次の通貨で取引されていました。
| 米ドル | 円 | ユーロ | 元 | |
|---|---|---|---|---|
| 日本からの輸出 | 51.1% | 34.7% | 6.3% | 2.2% |
| 日本への輸入 | 67.5% | 24.7% | 3.3% | 2.3% |
比率は金額の比率です。貿易統計に計上された取引のうち、取引の通貨が分かるものだけで計算されています。
輸出でも、半分あまりが米ドル建てです。日本の会社が外国に売るときでさえ、円で値段をつけている取引は3分の1ほどにとどまります。輸入では米ドルの割合がさらに高く、3分の2を超えます。
これは日本の輸出入だけの数字です。世界全体の貿易で、どの通貨がどれだけ使われているかを示すものではありません。
04 世界の外貨準備は、どの通貨で持たれている?
各国の中央銀行や政府は、外国の通貨建ての資産を外貨準備として持っています。IMFの説明では、外貨準備は、国際収支の資金の必要や、為替市場への介入などに備えて、通貨当局がすぐに使える対外資産です。日本の外貨準備が何に使われるかは、為替介入とはで紹介しています。
IMFは、世界の外貨準備が何の通貨で持たれているかを、COFERという統計にまとめています。報告に加わっている国・地域は、140を超えます。参加は各国の判断で、国ごとの数字は公表されません。
2026年4〜6月期の内訳は、次のとおりです。
| 通貨 | 外貨準備に占める割合 |
|---|---|
| 米ドル | 56.70% |
| ユーロ | 20.60% |
| 日本円 | 4.96% |
| 英ポンド | 4.57% |
| 人民元 | 2.11% |
残りは、カナダ・ドル、豪ドル、スイス・フラン、そのほかの通貨です。世界の外貨準備の合計は、13兆2,168億ドルでした。
COFERが数えるのは、貨幣用金、SDR(特別引出権)、IMFにおける準備ポジションを除いた外貨準備です。通貨の内訳が報告されていない分は、IMFのスタッフが推計で埋めています。2026年4〜6月期は、全体の10.58%が推計分です。IMFは2025年7〜9月期から、この方法で通貨別の内訳を全体の100%まで示しています。数字は2000年1〜3月期までさかのぼって改められました。過去の資料に載っている割合とは、数字がそろわない場合があります。この記事の数字は、2026年10月30日にIMFのデータから取得した版です。
同じ版で見ると、米ドルの割合は2000年1〜3月期に70.80%でした。26年で14ポイントほど下がったことになります。それでも、世界の外貨準備の半分以上は、今も米ドルです。2番目のユーロと比べても、2.7倍あまりの大きさがあります。
05 為替の取引に、米ドルはどのくらい登場する?
外国為替市場では、円とドル、ユーロとドルのように、2つの通貨を交換します。ここで数える割合は、外貨準備とは別のものです。
為替取引の規模は、外為・デリバティブ・サーベイという調査で分かります。日本銀行の解説によると、調査は3年に1度で、BISと各国・地域の中央銀行が、金融機関から集めた数字を取りまとめています。2025年4月の調査は、2026年6月に確報が出ました。この月の1日平均の為替取引高は、9兆5,100億ドルです。
| 通貨 | 取引に登場した割合 |
|---|---|
| 米ドル | 89% |
| ユーロ | 29% |
| 日本円 | 17% |
| 英ポンド | 10% |
| 人民元 | 9% |
1つの取引には、必ず2つの通貨が登場します。BISは通貨ごとに、その通貨が関わった取引の割合を数えているので、全部の通貨を足すと200%になります。
米ドルの89%は、世界の為替取引の89%に米ドルが登場した、という意味です。世界のお金の89%が米ドル、という意味ではありません。
数字で見ると、米ドルが片側にない為替取引は、全体の1割ほどしかありません。取引の大半は、米ドルとほかの通貨の交換です。
外貨準備の56.70%と、この89%は、数えているものも分母も違います。2つの統計の数字を、そのまま同じ意味の割合として比べることはできません。
06 米ドルが中心になった経緯は?1944〜1973年
今の形につながる出来事を、第二次世界大戦の終わりごろから順に見ていきます。金とドルの結びつきが、途中で大きく変わります。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 1944年7月 | 44か国の代表がアメリカのブレトンウッズに集まり、新しい国際通貨制度をつくる |
| 1949年 | 日本で1ドル=360円の単一為替レートを実施 |
| 1971年8月15日 | アメリカ政府が金とドルの交換の停止を発表 |
| 1971年8月28日 | 日本も変動相場制に移る |
| 1971年12月18日 | スミソニアン合意が成立。ドルの金に対する7.89%の切下げと、日本の1ドル=308円の新しい基準レートが決まる |
| 1973年2月 | 日本は変動相場制に移る |
ブレトンウッズでできた制度では、ドルは金1オンス=35ドルで金と結びつけられました。各国の通貨は、ドルに対して1%の幅の中で固定されます(Federal Reserve History)。1949年の360円は横浜税関の年表、1973年2月は門司税関の管内年別貿易額推移表で確かめています。1971年の出来事は、経済企画庁の昭和47年 年次経済報告によるものです。合意の名前は、昭和48年 年次経済報告の「71年12月に成立したスミソニアン合意」という書き方に合わせました。昭和48年 年次経済報告も、日本は「2月以降,変動相場制を続けている」と書いています。
河合氏の論文は、この流れを1971年のニクソン・ショックを境にした変化として描いています。固定相場の時代には米ドルが基軸通貨の役割を担い、1973年以降は主要な先進国を中心に変動相場へ切り替わった、という整理です。
ここで、1971年の報告の2つの意味を思い出すと、流れがつかみやすくなります。1971年8月で、ドルは外国の政府が金と交換できる通貨ではなくなりました。一方で、取引や準備に使う通貨としての米ドルの大きさは、前の節で見た数字のとおりです。河合氏も、2007〜09年の世界金融危機のあとについて、「最も支配的な国際通貨としての米ドルの機能が損なわれる事態には至っていない」と書いています。
変動相場制に移ったあとの1985年の出来事はプラザ合意とはで、今の為替レートの読み方は円安・円高とはで説明しています。金と結びつかないお札が受け取られるしくみは、お金に価値があるのはなぜ?と兌換紙幣と不換紙幣の違いは?で扱っています。
07 ユーロ・円・人民元は、いまどんな位置にある?
米ドル以外の主な通貨について、統計ごとの数字を見ていきます。順番や割合は、それぞれの統計の中で読むものです。
ユーロ
ユーロは、外貨準備で20.60%と2番目、為替取引でも2番目で29%です。河合氏は、1999年に西欧の11か国が共通通貨ユーロを生み出したことで、国際通貨システムは「複数基軸通貨制度へと展開」したと見ています。
これは河合氏の分析としての位置づけです。ユーロが主要な国際通貨であることと、米ドルと同じ位置の基軸通貨かどうかは、別の問いです。
円
円は、外貨準備で4.96%です。為替取引では17%で、米ドル、ユーロに次ぐ3番目の通貨です。
円の立ち位置には、日本銀行の氷見野副総裁も、2026年5月16日の講演で触れました。「円はドルのような基軸通貨でもなければ、ユーロのような地域統合の手段でもありません」という一文です。中曽氏・橋本氏の論文は、円について「ドル基軸通貨体制を補完する国際通貨としての側面が強まっている」と見ています。
人民元
人民元は、外貨準備で2.11%、為替取引で9%です。COFERが人民元をほかの通貨と分けて数えるようになったのは、2016年10〜12月期からです。為替取引に人民元が登場する割合は、BISの同じ表で、2013年の2%から2025年は9%になりました。
08 よくある質問
基軸通貨と国際通貨は同じ意味?
同じ意味ではありません。河合氏の論文の説明では、国際通貨のうち、ほかの国が為替レートの安定や外貨準備の対象にする通貨が基軸通貨です。ただし、この言葉の意味は資料や時代によって違い、統一の定義は、この記事で調べた資料には見当たりませんでした。
米ドルの割合が、統計ごとに違うのはどうして?
数えているものが違うからです。日本の貿易の51.1%は、日本の輸出の金額のうちの割合です。外貨準備の56.70%は世界の外貨準備の残高のうちの割合、為替取引の89%は取引に登場した割合(合計200%)です。分母が違うので、どの数字が本当の割合、ということではありません。
ユーロや人民元は、基軸通貨?
この記事では判定していません。外貨準備ではユーロが20.60%、人民元が2.11%、為替取引ではユーロが29%、人民元が9%です。河合氏はユーロの誕生で複数の基軸通貨の時代に移ったと見ていますが、これは河合氏の分析です。
- 基軸通貨は、国際的に使われる通貨のうち、特に中心的な役割を担う通貨を指す言葉。統一の定義は、調べた資料には見当たらなかった
- 米ドルの割合は、日本の輸出で51.1%、世界の外貨準備で56.70%、世界の為替取引で89%
- 3つの統計は数えているものも分母も違う。為替取引の割合は、合計が200%になる数え方
- 1971年8月に金とドルの交換は止まり、日本は1973年2月に変動相場制へ移った
- ユーロ・円・人民元の位置づけについては、研究者の見方を、その人の分析として紹介した

