千円札を手に取ると、顔と金額はすぐ目に入ります。ところが近づいて見ると、ハンコのような印や、英字と数字の並び、隅の小さな文字まで入っています。ふだん「お札」と呼んでいるこの紙の正式な名前が、「日本銀行券」です。出すことができるのは日本銀行だけで、その根拠は日本銀行法第46条。刷っているのは日本銀行ではなく、国立印刷局です。
- 正式な名前は日本銀行券。出せるのは日本銀行だけで、刷るのは国立印刷局
- 表に総裁の印、裏に発券局長の印。ほかに行章・製造銘版・記番号が入っている
- 日本銀行の帳簿では、お札は今も「負債」。2025年の大みそかに年を越したお札は183.2億枚
01 日本銀行券とは何?
出す側と刷る側が別々、というのが最初のポイントです。お札が財布に届くまでを追うと、次のようになります。
- 財務大臣が製造を命じ、それを受けて日本銀行が注文を出す
- 国立印刷局が、紙づくりから印刷までを自前で行い、日本銀行へ納める
- 日本銀行から銀行などを経て、私たちの財布に入る
納められる量は、いまは年間およそ30億枚。紙と印刷を国立印刷局(とその前身)が受け持つ形は、1877年の国立銀行券のころから続いています。お札の紙の原料や作り方は、お札の紙の記事にまとめています。
日本銀行の創立は1882年、最初の日本銀行券はその3年後の1885年です。法律上の呼び方や、硬貨との違いは貨幣・紙幣・硬貨・通貨の違いにまとめています。
02 お札の表と裏には何が入っている?
ここからは、手元のお札を見ながら読んでみてください。金額と顔のほかに、「だれが出し、だれが作ったか」を示すものが5つあります。
| 名前 | 場所と、何を示すか |
|---|---|
| 総裁之印 | 表側。日本銀行のトップである総裁の印 |
| 発券局長の印 | 裏側。日本銀行でお札の発行や回収を受け持つ発券局長の印 |
| 行章 | 目玉のような形のマーク。日本銀行のシンボル |
| 製造銘版 | 表の下端近くの小さな「国立印刷局製造」。刷ったところを示す |
| 記番号 | 表の左上と右下の英字と数字。1枚ごとに違う |
2つの印は、どちらも篆書体で彫られています。目玉のようなマークは「日」の字の古い形がもとで、1885年の最初の日本銀行券にもすでにありました。ただ、そのころのマークは突起が長めで、まわりを文字が囲んでいたそうです。
数えると、5つのうち3つ(2つの印と行章)は日本銀行のしるしです。刷った国立印刷局の名前は、表の下の小さな文字だけ。お札の上では、発行する側のしるしのほうがずっと多く入っています。
03 記番号は何通りある?
隅に入った英字と数字は、いわばお札の背番号です。同じ種類のお札なら、同じ番号は出てきません。2024年7月に出た今のお札は、6桁の数字を、前後から英字2文字ずつではさむ形です。
- 英字:26文字からIとOを抜いた24文字(数字の1・0と見まちがえないため)
- 数字:6桁で、使うのは90万通り(いちばん大きい番号は900000)
掛け合わせると、24×24×90万×24×24=2,985億9,840万。2025年末に出回っていたお札は、全種類を合わせて183.2億枚。番号のひと回りはその約16倍で、それだけ大きな組み合わせが用意されていることになります。
F券より前の、今も発行されているお札では、英字は前に1〜2文字、後ろに1文字だけです。途中から記番号の色が変わったお札もあります。番号の組み合わせが尽きたときや、仕様を部分的に改めたときに、色を変えてきたと国立印刷局は説明しています。野口英世の千円札では、2019年から紺色の番号が加わりました。
04 日本銀行にとってお札は何?
財布の一万円札は、持っている人にとっては財産です。ところが、その一万円札を出した日本銀行の帳簿を開くと、反対側の「負債」の欄に載っています。なぜそうなるのか、話はお札が生まれたころにさかのぼります。
始まったばかりの日本銀行券は、銀と引き換えられる約束つきのお札でした。のちに、引き換える相手は金に変わります。持ち主がいつ交換を言い出しても応じられるよう、日本銀行は、出したお札の額に見合う金や銀を手元に置く決まりでした。日本銀行自身、このころのお札を「債務証書」のようなものと表現しています。
金や銀を持っておく義務は、その後なくなりました。いまは、お札の値打ちを支えているのは、日本銀行が持っている資産そのものではありません。日本銀行の金融政策が適切に運ばれていることだ、という考え方に変わっています。金と交換する約束がなくなっても、人々の信頼に応え続ける責任は日本銀行に残ります。そのため、お札は今も「債務証書」に近いものとして、帳簿の負債の側に置かれています。海外でも、主な中央銀行の多くが同じ載せ方をしています。
05 お札はどれくらい出回っている?
2025年の大みそか、日本中で年を越したお札は183.2億枚ありました。金額にすると120.6兆円です。積み上げると約1,832km。金額を枚数で割ると、1枚あたり平均約6,600円になります。
お札が世の中へ出ていく入口は、銀行などです。銀行が日本銀行に置いている当座預金を取り崩し、お札にして持ち帰る。日本銀行から見ると、このときが「発行」にあたります。どれだけ出ていくかを左右するのは、世の中がどれだけお札を求めているか、つまり需要です。
お札の寿命は、思ったより短めです。長持ちする一万円札でも4〜5年程度。五千円札と千円札になると、1〜2年程度で入れ替わります。五千円札と千円札はおつりとして手から手へ渡る回数が多く、そのぶん早く傷むと日本銀行は説明しています。くたびれて日本銀行へ戻ってきたお札は、そこで選り分けられ、細かく刻まれます。
06 よくある質問
お札に製造年が書かれていないのはなぜ?
硬貨に年が入っているのは、金や銀で作っていた時代に、品位を示すために刻んでいた名残だそうです。お札は傷んだ順に新しく作って入れ替えていくものなので、1枚ごとの製造年は入れていない、と国立印刷局は説明しています。
お札の「YEN」の表記はなぜ?
日本銀行券は、1885年の最初から「YEN」と書かれています。ただ、なぜ「EN」ではないのか、はっきりしていません。発音の説など、いくつかの説があるだけです。
今のお札が「F券」と呼ばれるのはなぜ?
2024年に出た今のお札は、戦後6番目のお札なので「F券」と呼ばれています。お札がどう移り変わってきたかは日本のお札の歴史、肖像の決まり方はお札の肖像画はどう決まる?にあります。
- 正式な名前は日本銀行券。出せるのは日本銀行だけで、国立印刷局が紙から印刷まで手がける
- 表に総裁の印、裏に発券局長の印。行章・製造銘版・記番号(今のお札は2,985億9,840万通り)も入っている
- 日本銀行の帳簿では今も負債。2025年の大みそかに年を越したお札は183.2億枚・120.6兆円

